社長からの手紙
一粒のぶどう2023/09/1
長い猛暑となった今年の夏もようやく後ろ姿を見せ始めました。皆さんの変わらない誠実な仕事ぶりのお陰さまで、今夏の成果も実り豊かなものになりそうです。この秋の懇親旅行も断念しなければなりませんので、代わりに浮羽の果物をお届けします。いつもの梨に加えて台風にも負けずに育った“巨峰”ぶどうを贈ります。ぶどうの育成には、ひと房ごとに丹念に袋掛け作業をしなければなりません。皆さんの日々の仕事も同じで、手抜きのない作業の積み重ねではじめて成果が生まれます。巨峰の一粒一粒を瑞々しく味わい、夏の疲れを癒して頂ければ幸いです。
ぶどうにはツバメとかかわって一つの思い出がよみがえります。もう40年も前の話・・長浜の放送局の事業所には、文化センターの会館が併設していました(いまはもう取り壊され近代的な新館に建て替わっています)。この当時の会館の清掃男性主任Sさんは、朝日ビルメンマンらしい方でした。お客さんの気持ちをいつも察して、毎日影日向なく黙々と勤めを果たします。
そんな彼がある日、ちょっと相談があるということで仕事終わりの夕方に長浜ラーメン屋台で会いました。「実は会館の玄関の天井にツバメが巣をつくって、雛を育てている。オーナーさんから糞が落ちてきて来館者にかかったらたいへんだから、巣を撤去するように指示された。しかし自分はどうしても巣を壊すことは出来ないので、退職を考えている」との由。その相談を受けて、私は工事班の先輩に頼んで夜間に巣を撤去してもらった。その先がどうなったかは分からないが、農家育ちの先輩だからなんとかツバメの親子が生き残れるようにしてくれたのではないかと秘かに祈ったことです。
季節も夏へと移ろいS主任から「ぶどう狩り」のお誘いを受けた。彼の実家は田主丸で大きな農園を営んでいるので、盆休みに一緒にぶどうを狩ろうとの心遣いであった。耳納連山からの柔らかな山風を受けながら、ぶどう畑で男ふたり、黙って一粒の巨峰の実を味わった。S主任とはその後も一度もあのツバメの巣のことを話すことはありませんでした。